札幌高等裁判所函館支部 昭和25年(ネ)90号 判決
控訴代理人は原判決を取消す。森簡易裁判所が昭和二十四年九月十九日なした申立人被控訴人相手方控訴人間の昭和二十四年(ノ)第六号民事特別調停事件の強制調停は無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において調停に代る裁判が確定すれば裁判上の和解と同じく確定判決と同一の効力を有するとするも、和解はそれが裁判上の和解であろうと裁判外の和解であろうと一面私法上の契約たる性質を有するものである。従つて和解に無効原因が存在する限り当事者は何時でもその無効を主張し、和解のなかつた状態に復し得べきである。本件においては小作調停法に準拠せず戦時民事特別法に基き強制調停をなした違法があるばかりでなく、農地調整法によれば都道府県知事の許可を受け又は農地委員会の承認がなければ農地の賃貸借の解除若くは解約の効力を生じないから、これ等の無効原因を理由に調停無効確認を求め得るのであると述べ、被控訴代理人において道知事の許可を受けていないことは争わないと陳述した外原判決事実摘示と同一であるから、ここに之を引用する。
<立証省略>
三、理 由
控訴人が現在本件土地を耕作していることは当事者間に争がない。右土地からは馬鈴薯や雑穀等が生産され、主要食糧事前割当も受け、昭和二十三年度には馬鈴薯三俵の供出があつたことは成立に争のない甲第三号証により明かであるから、耕作の目的に供されている土地で農耕地であることは疑がないし、控訴人がこれを耕作するようになつたのは、原審における証人加藤リヱ、同山野安太郎の各証言に原審における控訴本人尋問の結果を対比すれば認められるように、昭和二十年四月頃まだ食糧難がひどかつたので開墾して食糧を補う目的で被控訴人から本件土地を借り受け、貸借期間については特別の約束はしなかつたが、被控訴人方の畑の手伝いをするという約定で当時藪地であつたのを漸次開墾し耕作して来たものであるから、以上認定の各事実を総合するときは、本件土地については賃貸借契約存在し、これに基き控訴人において耕作しおるものと認定するを妥当といわねばならない。右認定に反する原審における被控訴本人の供述は措信し難くその他右認定を妨ぐる証拠はない。しかして、その後被控訴人が控訴人を相手として森簡易裁判所に対し戦時民事特別法による調停として本件土地の明渡の申立をなしたところ、同裁判所が昭和二十四年九月十九日控訴人主張のような内容の調停に代る裁判をなしたことは当事者間に争なく、右裁判に対し当事者のいずれからも即時抗告の申立のなかつたことは弁論の全趣旨から見るも争のあることは窺われないので、該裁判は抗告期間の経過により確定するに至つたものということができる。ところが控訴人は右裁判は小作調停法によらない違法がありと主張し、農地引上について道知事の許可がないといい、その無効確認を求めているので、その当否を検討して見る。
戦時民事特別法によつてなされた調停に代る裁判が確定すれば、裁判上の和解と同一の効力を有することは同法が準用する金銭債務臨時調停法第十条によつて明かであり、裁判上の和解は民事訴訟法第二百三条により確定判決と同一の効力を有するから調停に代る裁判も確定判決と同一の効力を有することは異論のないところである。従つて調停に代る裁判が確定した以上爾後裁判所は右裁判の内容と相容れない認定をなし得ないのは勿論のことで当事者も右裁判に反する主張をなしこれを争うことは許されないことになり、如何なる理由に基くも当然無効という場合は認められない。控訴代理人は裁判上の和解といえども一面私法上の契約たる性質を有し、私法上無効の原因存するときは当然無効確認を求め得べきものとなすようだが、調停に代る裁判には私法上の契約関係も当事者の私法上の行為も存在しないので、私法上の無効原因を伴う余地がないから、かような見解には輙く左袒し難い。若しあくまで右裁判の効力を争うならば再審の訴を提起し、右裁判の取消を求める外ないのである。控訴人の本訴請求は失当たるを免れない。同旨に出た原判決はまことに相当で本件控訴は理由がないから棄却するの外ない。よつて民事訴訟法第三百八十四条、第八十九条、第九十五条に従い、主文の通り判決する。
(裁判官 原和雄 藤田和夫 成智寿朗)